ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
つい昨日、「8月」をテーマに記事を書いたばかりですが、実は以前から「7月」についても気になって調べていました。
気になっているのは、イタリア語で「7月」を意味する"luglio"です。
既に8月を迎えてしまいましたが、今回はその内容をまとめたいと思います。
イタリア語で「7月」は何と言う?
既に冒頭でも述べましたが、イタリア語で「7月」は"luglio"と表現します。
カナ表記をすれば[ルッリョ]という感じでしょうか。
月の名前に関して英語では常に大文字で書き始めますが(例:"July")、イタリア語の場合はそのようなルールはありません。
そのため"luglio"の頭文字は小文字"L"[エル]であり、大文字"I" [アイ]ではありませんので注意しましょう。
また、"gli-"というつづりは後に母音が続いて日本語の「リャ行」のような音を表します。
"luglio"の由来とは?
"luglio"はラテン語の"iulius"に由来します。
これは前回記事でもご紹介の通り、ローマ帝国時代の皇帝ユリウス・カエサル(ラテン語で"Iulius Caesar")を讃えて、彼の名前をつけたことに端を発します。
ちなみにラテン文字("ABC・・・"といったアルファベット)には、そもそも"J"は存在していませんでした。
もともと母音"I"[アイ]であったのが、下向きにカーブを描くように伸びていって、現在の文字"J"に至ったと言われています。
更には多くの言語で「ジャ行」のような音に変化していきました(例:"Japan"[ジャパン])。
イタリア語では、"J"を"i
lungo" [イ・ルンゴ]と呼びます。
"lungo"は「長い」(英語"long"に相当)を意味し、文字通り「長い"i"[イ]」と呼ばれますが、子音"J"が生まれた背景を考えれば納得の呼称と言えます。
なぜ"iulius"が"luglio"となったのか?
イタリア語で「7月」を何というか、その由来が何かは分かりました。
さて、問題はここからです。
ラテン語でカエサルの名前"iulius"が由来でありながら、イタリア語では"luglio"・・・。
皆さんもお気づきかと思いますが、頭文字がラテン語で"I"[アイ]だったのが、イタリア語では"L"[エル]となっているのです!
他の言語でも「7月」はラテン語"iulius"に由来しますが、イタリア以外の地域ではこのような現象は見られません。
他言語の例を以下に示すので、比較してみましょう。
フランス語 juillet [ジュイエ]
スペイン語 julio [フリオ]
ポルトガル語 julho [ジュリョ]
ドイツ語 Juli [ユーリ]
英語 July [ジュライ]
表す音は言語によってまちまちですが、ほとんどが子音"J"に変移しています。イタリア語のように、子音"L"に変移したケースは他の地域では見られません。
この謎について、自分なりの考えと調べた結果を以下にまとめます。
仮説1.イタリア語は子音"J"を使用しないから?
まず、イタリア語アルファベットが関係しているのでは?と考えました。
現代イタリア語の表記は英語同様ラテン文字を用いますが、英語同様26文字を全て用いるわけではありません。
"J、K、W、X、Y"の5文字は外来語の表記を除き、イタリア語固有の単語では用いられないのです。
そこで代わりに"L"を用いた・・・という仮説です。
ただ、これにはすぐ反論が思いつきました。
イタリア語で「6月」は"giugno"[ジュニョ]と表現するのです。
そもそも"giugno"はラテン語"iunius"
[ユニウス]に由来します。英語では"June"、フランス語では"juin"[ジュアン]となり、子音"J"への変移が見て取れます。
これがイタリア語では"giugno"となり、音の[ジュニョ]も他の言語と似ています。
子音"J"を用いないとはいえ、イタリア語では"gi + 母音"の形で「ジャ行」の音を表すことができるのです。
これでは、「7月」だけ、"J"ではなく"L"を用いる理由にはなりません。
仮説2.「6月」との混同を避けるため?
続いて、書き分けや聞き分けの点から考えてみました。
もし「7月」が"giugno"[ジュニョ]のように"gi-"を用いて"giuglio"[ジュリョ]となった場合、つづりや音が似ることとなります。
それを避けるために、"luglio"となったのではないか・・・という仮説です。
実際に、"giuglio"という表現は古い形として見られるそうです。
それでも、ではなぜ子音"L"が用いられたのかという点が分かりません。
仮説3.文字を間違えた?
まさかとは思いますが、こんなことも考えてみました。
大文字の"I"[アイ]と小文字"l"[エル]って、似ていますよね。
ひょっとすると文字を見間違えたのではないか・・・という仮説です。
ラテン文字はもともと大文字しかありませんでした。時代を経て小文字が出来上がったわけですが、大文字"IULIUS"を小文字にしたときに"lulius"としてしまったのではないか?
・・・ここまで考えて、いくらなんでも無いかと思い直します。
同じ単語中にもう一つ"L"が含まれていますし、他の単語で例が無いのに「7月」だけ間違えるとは考えられません。
仮説4.冠詞が後に続く母音とくっついたから?
ネットで"Luglio
etymology"「7月、語源」のキーワードで調べてみました。
すると、この謎に取り組んでいる(?)方は多くいらっしゃるようで、議論されているサイトが見受けられました。
その中で、ある方が「冠詞の影響では?」と言っていたのが斬新でした。
イタリア語の定冠詞は男性形で"il、lo"、女性形で"la"となります。
ただし続く名詞が母音から始まる単語の場合は、アポストロフィのついた"l'-"で表現されます。例えば、"amico"[アミーコ]「友達」に定冠詞がつくと"l’amico"[ラミーコ]、といった具合です。
つまり、"luglio"は冠詞の"L"と語源である"iulius"がくっついて"l'iulius"[リウリウス]のような形になり、今に至るのでは・・・という仮説です。
しかしながらこれも、古くは"giuglio"という形があったことや他の単語で同様の事例が見られないことから考えにくいでしょう。
【調査結果】”luglio”は「異化」によるものだった!?
ここまでいろいろと考えてきたのですが、語源を調べるとどうやら「異化」という現象が関係しているようです。
イタリア語の語源を検索できるサイト"Dizionario Etimologico"、日本語で「語源辞典」によると、以下の解説が示されています。
dal lat. JULIUS [fatto per dissimilazione LULIU-S]
訳出しますと、「ラテン語"JULIUS"から、異化によりLULIU-Sとなった」という感じでしょうか。
「異化」とは?
どうやら「異化」(イタリア語"dissimilazione")というのがキーワードのようです。
では「異化」とは何でしょう?
調べによると言語学や音声学における用語で、ある音が異なる音に変化する現象をいうそうです。
例えばイタリア語で「木」を意味する"albero"[アルベロ]は、ラテン語"arborem"に由来する単語ですが、ラテン語における1つ目の"R"がイタリア語で"L"に変わっていますが、この変化が「異化」です。
「異化」は他の言語でも見られる現象です。
例えば英語で「紫色」を意味する"purple"は、ルーツはラテン語"purpura"です。この場合は、2つ目の"R"が"L"に変わっています。
「異化」は"R"と"L"の変化に限りません。
スペイン語"alma"[アルマ]「魂」のラテン語"anima"からの変化("ni"が"L"に)や、イタリア語"rado"[ラド]「稀な」のラテン語"rarum"からの変化(2つ目の"R"が"D"に)といったケースも認められています。
以上のことから"luglio"は、ラテン語の"iulius"が時代を経て(古い形の"giuglio"を経て?)音が変化した形だと考えられました。
最後に
いかがでしたでしょうか。イタリア語"luglio"「7月」について、今回は調べてみました。
いろいろな仮説を考えてみたものの、結果としては「異化」と呼ばれる音の変化によるものだということが分かりました。
こうした変化は、言語というものが長い時間を掛けて醸成されてきた結果の賜物と言えると思います。
月をまたぐぐらい考えすぎると外国語学習に支障が出てしまいますが、つづりや音に着目してみると新たな気づきが得られるかもしれませんね。
こうした発想を大事にして、これからも語学を楽しんでいければと思います。
また、「8月」についても調べています。よければ合わせてご覧ください。