何故、フランス語"beaucoup"が「たくさん」を表すのか?

2022/05/09

フランス語

t f B! P L

ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

外国語習得の道のりは困難を伴いますが、最初の一歩としてあいさつなどの表現を覚え、それが通じたり聞き取れたりしたときは喜びもひとしおだと思います。

「こんにちは」や「ありがとう」といった表現は、ほとんど暗記できてしまうので素通りしがちですが、その語源について今回は考えてみたいと思います。


フランス語で「どうもありがとう」の表現

「どうもありがとう」という感謝を伝える表現はフランス語で"Merci beaucoup" [メルシ・ボク]と言います。

2つの単語から成る表現ですが、前半"Merci"のみで「ありがとう」としても用いられることは多くの方もご存じだと思います。

後半"beaucoup"は「たくさん、大いに」を意味する副詞で、感謝の度合いを高めることができます。

英語で言えば"Thank you"に、"very much"が続くイメージですね。

ところで、この"beaucoup"はなぜ「たくさん」を意味するのでしょうか?


"beaucoup"の語源とは?

最初の内は"beaucoup"は「たくさん」という意味なのだと覚えていましたが、フランス語学習を進めていくと、"beau"および"coup"という単語がそれぞれあることに気づきます。

"Beau"は「美しい」等の意味で、"coup"は「打撃」等の意味があります。

"coup"を使った表現に"coup d’état" [ク・デタ]「クーデター」があり、政治体制の急な変動や転覆の意味で使われますが、直訳すると国家()の打撃を意味しています。

なぜ"beau"「美しい」と"coup"「打撃」の複合形"beaucoup"が「たくさん」という副詞になるのでしょうか。

語源の面から調べてみましょう。Wiktionaryで検索すると、以下の解説を得ることができました。

From Old French biau cop, first attested circa 1210. Equivalent to beau (“nice, beautiful”) + coup (“hit, strike”). The latter word also means “helping of soup or beverage”, first attested circa 1375, whose sense may have triggered or reinforced beaucoup to mean “a lot”.

対訳:古フランス語biau cop、初出は1210年頃。beau「良い、美しい」+coup「ヒット、打撃」と同義。coup1375年頃に初めて「スープや飲料の一杯」という意味が見られ、それがきっかけで「たくさん」の意味になったと思われる。

(出典:en.wiktionary/beaucoup

またOnline etymology dictionaryではcoupに関して以下の通り説明されています。

literally "a great heap" (13c.), from beau "fine, great" + coup "a stroke," also "a throw," hence, "a heap"

対訳:文字通りには「大きなかたまり」(13世紀)、beau「良い、大きい」+coup「打撃」または「一投」から「ひとかたまり」。

(出典:Online etymology dictionary

"coup"について意味の発展を考えると、本来の「打撃」を与えるための動作「一投」が連想され、一投されるもの=「ひとかたまり」になったということでしょうか。

Wiktionaryで示されていた「スープや飲料の一杯」も投げるものではありませんが、ひとすくいで得られるものという点でイメージは共通していると言えそうです。


「美しい」と「大きい」の関係とは?

以上の引用元から、"beaucoup"の内"coup"に関しては「一杯」のイメージがつかめました。

では、前半"beau"「美しい」はどう連想させたらよいでしょうか。

実は"beau"を辞書で調べると、「美しい、きれいな」や「(天気が)よい」などの意味に続いて、「大きな、かなりの」という意味も見つけることができます。

そもそも"beau"は量や程度の大きさを表す用法も持っているということは、"beaucoup"で「大きな一杯」となり「たくさん」の意味にもつながります。

この「美しい」という意味と「大きい」という意味の関連は、ラテン系言語のフランス語"beau"に限らずゲルマン系のドイツ語でも確認できました。

ドイツ語で"schön" [シェーン]が「美しい」に相当する形容詞ですが、"beau"同様に「大きい、かなりの」という意味を持っています。

またところ変わって中国語の漢字「美」についても考えてみましょう。

「美」をよく見ると、下半分に「大」という漢字が含まれていることに気づきます。

この漢字の成り立ちは諸説あるようですが、一説では「羊」と「大」という漢字の合成によるものだそうです(参照:Wikipedia

羊は古代中国の儀式における供物として重要な存在だったそうで、捧げるものとしては「大きい」方が良いということでしょう。

言葉の成り立ちを考えた時、もしかしたら洋の東西を問わず昔は「美しい」と「大きい」が同じイメージで捉えられていたのかもしれませんね。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回はフランス語"beaucoup"「たくさん」という単語について考えてみました。

"beau"および"coup"の主な意味だけで考えると、"beaucoup"とのつながりが見えなくなりますが、意味やルーツを深堀すれば「たくさん」というイメージもつきやすくなりますね。

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プロフィール

Yuma
様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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