ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
ドイツ語において「前つづり」というパーツを知っておくことは、語彙を増やす上で重要になってきます。
「前つづり」はドイツ語"Vorsilbe" [フォアジルベ]の対訳で、他の言語ではあまり聞きませんが"Prefix"(注:ドイツ語では"Präfix")と同義であり、要するに接頭辞です。
例えば、"Vorsilbe"という単語自体に"Vor-"という「前つづり」があります。そして"Vor-"は「~の前に」という意味を持っています。
そのため"Vor-"の付く単語を知らなかったとしても、空間的または時間的に「前の」という意味があるのではと推測できますし、覚える際にもイメージをつけやすくなるでしょう。
ただ、言語というのは奥が深いもので「前つづり」からイメージがつきにくいパターンもまた存在します。
今回はそんな例である、"Beruf" [ベルーフ]という単語について調べてみたいと思います。
「前つづり」+ "ruf"「呼ぶこと」の単語
今回のテーマ、"Beruf"は"Be-"という「前つづり」と"ruf"という部分(語幹と言います)によって構成される単語です。
まず語幹の"ruf" [ルーフ]を見ますと、動詞"rufen" [ルーフェン]「呼ぶ」の名詞形であり「呼ぶこと」を表していると言えます。
この"ruf"に前つづりをつけることで、単語の派生形が作られるというわけです。
例えば以下の単語が挙げられます。
例1)An+ruf
= Anruf「電話(を掛けること)」
例2)Aus+ruf
= Ausruf「叫び」
例1の前つづり"An"は英語"on"や"at"に相当する前置詞に由来します。特定の対象に対して"an"、呼ぶこと"ruf"=電話というイメージが湧きます。
例2の場合は"Aus"(英語"out"に相当する前置詞に由来)から、呼び声"ruf"を外に発する"aus"=叫びというイメージが湧きます。
では、次の場合はどうでしょう。
例3)Be+ruf =Beruf「職業」
「前つづり」"Be-"がつくと、その意味は「職業」となるのです。
語幹の"ruf"が「呼ぶこと」であることに変わりないのですが、「職業」という意味の派生はイメージが湧きません。これはどういうことでしょうか。
「前つづり」"Be-"の働きとは?
ここで、まずは"Be-"に着目してみたいと思います。
ドイツ語版Wiktionaryによれば、"Be-"の「前つづり」としての用法は以下の2つが挙げられています。
・Bildet als Vorsilbe ein transitives Verb aus einem zuvor intransitiven Verb
対訳:前つづりとして、自動詞を他動詞に変化させる。
・Verschiebt als Vorsilbe eines Verbs den Fokus und verändert damit die Satzkonstruktion
対訳:前つづりとして、焦点を変えることで文の構成を変化させる。
(出典:de.wiktionary)
1つ目の用法「自動詞を他動詞に変化」させる例は、自動詞"dienen"「勤務する、務める」に対する他動詞"bedienen"「~に仕える、~に対応する」というものがあります。
他動詞にすることで4格目的語(日本語で助詞「~を」、たまに「~に」に相当)を置くことができるようになります。
2つ目の用法「焦点を変えることで文の構成を変化」というのは言葉として分かりづらいですが、どちらも「支払う」という意味の動詞"zahlen"と"bezahlen"の区別があります。
この2語はどちらも他動詞ですが、4格目的語に置く内容でその焦点が区別されるというのです。
具体的には、"zahlen"が支払われる金額に焦点があります。
例4)Sie zahlte einen hohen Preis.「彼女は高額を支払った」
一方で"bezahlen"は、支払われる物やサービスに焦点があります。
例5)Er hat die Bücher bezahlt.「彼はその本に代金を支払った」
(参照:Duden 9. Auflage)
ただ、参照の"Duden"(ドイツ語の正書法辞典)でも言及されている通り、その区別は薄くなっているようです。
Zwischen bezahlen und zahlen besteht ein Bedeutungsunterschied, der jedoch vielfach nicht mehr bewusst ist, sodass beide Verben weitgehend unterschiedslos gebraucht werden
対訳:bezahlenとzahlenの間には意味の違いがあるものの、意識されなくなっている為、区別なく使用されます
"Beruf"が「職業」を意味するわけとは?
前つづり"Be-"の用法が確認できたので、いよいよ"Beruf"について考えてみたいと思います。
"Be-"の動詞に影響を与える用法を踏まえ、まずは動詞形"berufen"および前つづりを外した"rufen"に置き換えて考えてみましょう。
1."rufen"の意味
自動詞:叫ぶ、呼ぶ;呼び掛ける
他動詞:~を呼ぶ、~を叫ぶ
(参照:プログレッシブ独和辞典)
2."berufen"の意味
他動詞:~を招聘する、~を(高い地位に)登用する
(参照:プログレッシブ独和辞典)
両者を比較すると、どちらも他動詞の用法があることが分かります。そのためここでの"Be-"は、「焦点を変える・・・」という用法での使用かと思います。
前つづりのついた"Berufen"も、やはり「呼ぶ」というイメージがありました。
しかし焦点を変えたことで単に「呼ぶ」のではなく、呼んで何かのポジションに就かせるイメージが"berufen"にはあるということになります。
そのイメージが発展した結果、名詞形"Beruf"では「職業」を意味するようになったと考えると、一見脈絡の無さそうな意味が分かりやすくなるのではないでしょうか。
実は、他にも「呼ぶ」がルーツの単語がある
以上のように、今回はドイツ語Berufについて調べてみましたが、「呼ぶ」という語が「職業」に派生した例は他にも見られました。
英語"calling、vocation"
動詞"call"「呼ぶ、叫ぶ」から派生した名詞形"calling"は「叫び」という原義に加え「職業」という意味も持っています。
その由来は、Online etymology dictionaryによると以下の解説があります。
The sense "vocation, profession, trade, occupation" (1550s) traces to I Corinthians vii.20, where it means "position or state in life."
対訳:「職業、商売」(1550年代)という意味は、コリントの信徒への手紙Ⅰ第7章20節における「人生における地位や状態」に遡ります。
(出典:Online
etymology dictionary)
このコリントの信徒への手紙Ⅰというのは新約聖書に含まれる書簡の一つで、引用部分に関してもう少し調べてみると『各人、神様が与えてくださった役割にしたがって神様の御前で生きていくように』、ということなのだそうです(参照:www.bibletoolbox.net/)。
この『与えてくださった』という部分が「神に召された(呼ばれた)」ということであり、聖書を英語に訳す際に「呼ぶ」という単語で相当する"calling"が用いられたのではないでしょうか。
同じく「職業」を意味する"vocation"はラテン語に由来し原義は「呼ぶこと」ですが、英語へ流入させた古フランス語には「職業」という意味もあり、やはりこれも聖書の現地翻訳と言えるでしょう(参照:Online etymology dictionary)。
以上のことから、ドイツ語で"Beruf"の原義が「呼ぶこと」でありながら「職業」を意味したのも、新約聖書の一節に由来するものだったと言えそうです。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はドイツ語"Beruf"について考えてみました。
その意味「職業」のルーツは、他の言語にも対象を広げて調べることで聖書に由来するものだということが分かりました。
言葉は現地の歴史や文化を反映しているという好例ですね。
今後もこのような事例があれば紹介していきたいと思います。