いろいろな言語で「虹」の語源を調べてみた

2022/06/13

単語

t f B! P L

ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

今年も早いもので6月になりました。この時期はいわゆる梅雨時、雨が続き湿度も高く空気も重く感じられます。

雨と言えばハワイには"no rain, no rainbow."ということわざがあるそうです。「雨が無ければ虹も無し」ということで、雨上がりの虹を楽しみに体調に気を付けてすごしたいですね。

ところで虹という漢字は虫偏を持ちますが、古代の中国では龍になる大蛇が天に昇るときにできるのが虹とされていたことに由来しているそうです。

英語の"rainbow"は"rain"「雨」と"bow"「弓」の複合語ですが、言語によって「虹」の表現も様々ということでしょうか。

ということで今回はいろいろな言語で「虹」の表現を調べてみました。


ゲルマン系グループにおける「虹」

英語"rainbow"は既に述べたように"rain"「雨」と"bow"「弓」の複合語です。

この表現は英語と同じゲルマン系の言語グループで共通して見られます。

 ドイツ語    Regenbogen [レーゲンボーゲン]

 オランダ語   regenboog [レーゲンボーホ]

 デンマーク語  regnbue [ラインブーエ]※ノルウェー語も同じ。

 スウェーデン語 regnbåge [レンボーゲ]

どの言語もつづりがよく似ていることが分かります。

前半"regen"や"regn"が各言語で「雨」を意味しており、後半"bogen"や"bue"などが「弓」を意味する単語です。

「虹」に対するイメージがゲルマン民族の間で共通していたことが伺えますね。


ラテン系グループにおける「虹」

ゲルマン系グループでは虹の形を「弓」に例えていました。

では、ラテン系グループではどうでしょうか。

 フランス語  arc-en-ciel [アルカンシエル]

 イタリア語  arcobaleno [アルコバレーノ]

 スペイン語  arcoíris [アルコイーリス]※ポルトガル語も同じ。

 ルーマニア語 curcubeu [クルクベウ]

ラテン系の言語グループは、名前の通り古代ローマ時代の公用語であったラテン語を共通のルーツとして持ちます。

各言語を観察すればルーマニア語を除いて、最初の"arc-"部分が共通していることが分かります。

この"arc-"は、日本語で「弓」という意味です。

つまり、ラテン系グループもゲルマン系と同じく「弓」をイメージしていることになりますね。

ただゲルマン系と異なり、"arc-"以下の部分が言語によって異なります。

どんな意味があるのか、1つずつ見てみましょう。

1.フランス語"arc-en-ciel"

まずフランス語の"arc"以下、"en-ciel"についてです。

"en"は前置詞で「~の中に」等の意味を持ち、"ciel"は名詞で「空」を意味します。

つまり"arc-en-ciel"で「空の中の弓」と訳すことができます。

2.イタリア語"arcobaleno"

続いてはイタリア語の「虹」"arcobaleno"についてです。

後半"baleno"は、名詞で「閃光、光」という意味があります。

ということは"arcobaleno"で「光の弓」と訳すことができます。

3.スペイン語、ポルトガル語"arcoíris"

ではスペイン語とポルトガル語の「虹」はどうでしょう。

辞書で"iris"を引くと、「虹彩」という意味が得られます。

虹彩にも「虹」という漢字が含まれますが、瞳孔(いわゆる黒目)を囲むように色のついた部分が虹彩です。

虹彩の持つ筋肉が収縮したり膨張したりすることで瞳孔の大きさが変わり目に入る光の量を調整するのだそうです。

話が目に逸れてしまいましたが、そもそもこの"iris"はラテン語では「虹」を意味する単語であり、更にラテン語の元になったギリシャ語でも「虹」を指すのだそうです。

前半"arco"がついたのは他のラテン系グループの影響でしょうか。

日本語にするとすれば"arcoíris"で「虹色の弓」とできるかもしれません。

4.ルーマニア語"curcubeu"

最後はラテン系の中でも語形の異なるルーマニア語"curcubeu"です。

この語源は、英語版wiktionaryによると以下のように説明されています。

From *Vulgar Latin circus bibit, literally, ‘ring that drinks’ (from bibere (“to drink”))

対訳:俗ラテン語circus bibitから、原義「飲む輪」(bibere「飲む」に由来)。

出典:en.wiktionary

他の言語が持つ「弓」では無く、ルーマニア語では「輪」をイメージしている点が興味深いですね。

また後半部"beu"の由来と思われる"bibit"「飲む」というも他の言語とは発想が異なり面白いです。

虹が「輪」のように大きく開いた口で、何かを飲み込もうとしているようにイメージされたのかもしれませんね。


スラヴ系グループにおける「虹」

ゲルマン、ラテンに続いてはスラヴ系グループにおける「虹」の表現も調べてみましょう。

スラヴ系の一例を以下に取り上げます。

 ロシア語   raduga [ラードゥガ]※ラテン文字変換

 チェコ語   duha [ドゥハ]

 クロアチア語 duga [ドゥガ]

 ポーランド語 tęcza [テンチャ]

ロシア語、チェコ語、クロアチア語は似た形をしていますが、ポーランド語は全く異なる形をしています。

それぞれ、どんなルーツがあるのでしょうか。

1.ロシア/チェコ/クロアチア語"dug(h)a"

まずは3言語で似た"dug(h)a"という部分です。

これはスラヴ系のルーツ、スラヴ祖語"dǫga"に由来するようです。

英語版wiktionaryによると"dǫga"は「弓」または「虹」という意味であることが分かります。

ということはこれまでのゲルマン、ラテン系と同じようにスラヴ系も基本のイメージは「弓」であると言えます。

またロシア語"raduga"の場合、頭に"ra-"が付いていますが、このルーツは何でしょうか?

The first element probably derives from Proto-Slavic *radъ although folk etymology links it to Proto-Slavic *rajь.

対訳:前半の要素は恐らくスラヴ祖語*radъに由来すると思われるが、民間語源ではスラヴ祖語*rajьに関係すると言われている。

出典:en.wiktionary

スラヴ祖語*radъは、現代ロシア語"rad"(※ラテン文字変換)のルーツであり「嬉しい、めでたい」という意味であると言えます。

つまり、"raduga"で「めでたい弓」となり何とも縁起の良い意味になります。

一方で民間語源のスラヴ祖語*rajьは現代ロシア語"raj"(※ラテン文字変換)に通じ、意味は「楽園、天国」だそうです。

ということは民間語源に則れば、「楽園の弓」となりこれまた縁起の良い意味になります。

2.ポーランド語"tęcza"

ではポーランド語"tęcza"の語源は何でしょうか?

from Proto-Slavic *tǫča. Probably cognate with Serbo-Croatian tȕča (“hail”)[1] and Russian túča, “rain cloud”

対訳:スラヴ祖語*tǫčaから。恐らくセルボ・クロアチア語tȕča「雹」やロシア語túča「雨雲」と関連すると思われる。

出典:en.wiktionary

ルーツとなったスラヴ祖語*tǫčaを調べてみると「凝縮、堆積、降水、沈殿」などの意味があるそうです。

ここまで様々な言語における「虹」の表現を調べてきましたが、今回の例の中ではルーマニア語とポーランド語が「弓」とは関係無いことが分かりました。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回は「虹」という単語の各国語表現について調べてみました。

ゲルマン系、ラテン系、スラヴ系で単語の形は異なれど、そのルーツはほとんどが「弓」に関係していることが分かりました。

漢字の「虹」も含めて、その由来を調べてみると各地域の文化や物の見方が伺い知れて面白いですね。

今後もいろいろな言語を比較しながら語学を楽しみたいと思います。

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Yuma
様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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