ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
外国語を学んでいると、ついつい語源が気になってしまいます。
また複数の言語を並行していろいろかじっていると、言語間で似た単語を見つけた時に何か関連があるのでは?と勘ぐってしまいます。
今回は「おじさん、おばさん」を意味する単語について気になった例を紹介します。
「おじさん、おばさん」の表現
親族関係を表すとき、自身から見て両親の兄弟姉妹が「おじさん、おばさん」に当たります。
ちなみに漢字では「伯父 / 叔父、伯母 / 叔母」のようにそれぞれ2通りの表記が存在しますが、両親の兄や姉であれば「伯父、伯母」を、弟や妹であれば「叔父、叔母」と表記するとされているそうです。
これは中国における年齢や序列を重視する儒教の考えに基づくとのことで、文化が異なるヨーロッパではこうした表現の違いはありません。
「おじさん、おばさん」の各言語での表現は以下の通りです。
イタリア語 zio、zia
[ツィーオ(ア)]
スペイン語 tío、tía
[ティーオ(ア)]
ポルトガル語 tio、tia
[ティーウ(ア)]
スペイン語とポルトガル語は非常によく似ていますが、スペイン語では母音 i にアクセント記号をつけ忘れないようにしましょう。
この単語について考えるとき、私はある単語との関連性が気になっていました。
「おじさん、おばさん」と「神様」との関連性は?
突拍子もなく聞こえるかもしれませんが「おじさん、おばさん」と「神様」に関連があるのでは?
更に言えば同じ語源がルーツなのでは?とも思ったわけです。
というのも、上に挙げたイタリア語、スペイン語、ポルトガル語における「神様」の表現が「おじさん、おばさん」と類似しているのです。
イタリア語 dio [ディーオ]
スペイン語 dios [ディオス]
ポルトガル語 deus [デウシ]
失礼ながら「おじさん、おばさん」と「神様」では立場の全くことなる存在だと思うのですが、この似た表現には何か関連性があるのでしょうか。
それぞれの語源を遡って調べてみましょう。
「おじさん、おばさん」と「神様」の語源とは?
どの言語もロマンス諸語というグループに属しており、直接のルーツはラテン語にあります(ラテン語が各地域に枝分かれし発展しました)。
では、ラテン語では「おじさん、おばさん」と「神様」は何と表現するのでしょう?
1.「おじさん、おばさん」
ラテン語 thius、thia
[ティーウス(ア)]
2.「神様」
ラテン語 deus [デウス]
遡ってラテン語においても、なんとなく両者似ているような気がしてしまいます。
では、それぞれの語源を紐解いてみることにします。
まずラテン語"thius、thia"の語源はシンプルで古代ギリシャ語の"θεῖος (theîos)"に由来するそうです(参照:en.wiktionary)。
一方、"deus"の方は以下の解説が見つかりました。
From Old Latin deivos, from Proto-Italic *deiwos, from Proto-Indo-European *deywós. An o-stem derivative from *dyew- (“sky, heaven”), from which also diēs and Iuppiter.
対訳:古ラテン語deivos ← イタリック祖語*deiwos ← 印欧祖語*deywósから。*dyew-「空、天」から派生した語幹が/ o /で終わる語で、diēsやIuppiterの語源でもあります。
(出典:en.wiktionary)
引用中の"dies"や"Iuppiter"はラテン語でそれぞれ「日(英"day")」、「(ローマ神話の神)ユーピテル」を意味します。
「神様」のルーツは「天、空」から派生したとされており、「おじさん、おばさん」との関連性は全く伺えません。
古代ギリシャ語の"θεῖος (theîos)"とは?
巻き戻って今度は、ラテン語"thius、thia"「おじさん、おばさん」のルーツとなった古代ギリシャ語"θεῖος (theîos)"について調べてみましょう。
すると、同音異義語として2通りの用法があることが分かりました。
1つ目は形容詞として「神の、神聖な」という意味、2つ目は「父親または母親の兄弟、おじさん」。
ということは古代ギリシャ語において、「おじさん」と「神様」は関係があったということなのでしょうか?
各用法の語源を注意深く調べてみましょう。
1.形容詞"θεῖος (theîos)"の語源
From Proto-Hellenic *tʰḗhyos, from Proto-Indo-European *dʰéh₁s-yo-, from *dʰéh₁s.
対訳:ヘレニック祖語*tʰḗhyos ← 印欧祖語*dʰéh₁s-yo- ← *dʰéh₁sから。
(出典:en.wiktionary)
Wiktionaryのリンクを更にたどると末節の語源*dʰéh₁sは、「~する(英"to do")、設置する("to
place")」が原義だそうです。
(絶対的な)行為者というイメージが「神様」のルーツになったのかもしれません。
2.名詞"θεῖος (theîos)"の語源
では名詞「おじさん」の語源はどうでしょうか?
From Proto-Indo-European *dʰeh₁(y)- (“to suck”). Compare θῆλυς (thêlus, “female”), θηλή (thēlḗ, “teat”), τίτθη (títthē, “nurse”), τήθη (tḗthē, “grandmother”).
対訳:印欧祖語*dʰeh₁(y)-「(乳を)吸う」から。θῆλυς (thêlus)「女性の」、θηλή (thēlḗ)「乳首」、τίτθη (títthē)「乳母」、τήθη (tḗthē)「祖母」と関連。
(出典:en.witktionary)
ご覧の通り、末節の語源は*dʰeh₁(y)-「(乳を)吸う」であり、形容詞"θεῖος (theîos)"とは無関係でした。
関連する語を見ても分かる通り、(生みの親ではない)育ての親という原義が「両親ではない(兄弟姉妹としての)おじさん、おばさん」という意味へ発展したものと想像できます。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はいくつかのロマンス諸語のルーツであるラテン語の"thius、thia"「おじさん、おばさん」という単語について調べてみました。
「神様」との関連性を予想しましたが、古代ギリシャ語"θεῖος (theîos)"という同音異義語が見つかったものの異なる語源からの派生だったという結果でした。
今回は無関係という結果でしたが、いろいろなところに興味を持っておくと新たな発見があるかもしれません。
今後も興味深い単語があれば調べた内容を当ブログで紹介できればと思います。