ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
昨今は変化の激しい時代ですが言葉に関しても例外では無く、新語や流行語の登場はもちろんのこと新たな用法や意味を持つ語の登場など日々移り変わっています。
今回の記事では、「労働」または「旅行」を意味する現代語のルーツを探ることで言葉や用法の変化の程を伺ってみたいと思います。
同じルーツを持つ「労働」と「旅行」
今回のテーマである「労働」と「旅行」という単語ですが、以下に示す通り似た語形でありながら言語によって意味が異なるという例です。
フランス語 travail [トラヴァイユ] 「労働、勉強」
スペイン語 trabajo [トラバーホ] 「仕事、労働」
ポルトガル語 trabalho [トラバーリョ] 「仕事、労働」
英語 travel [トラヴェル] 「旅行」
日々の「仕事」に精を出し、休暇には「旅行」を楽しむというイメージからは正反対の両単語ですが、似た語形であるのは何故でしょうか。
実は上に挙げた単語は同じルーツから派生しているのです。
拷問器具から派生した「労働」と「旅行」?
「労働」を意味するフランス語"travail"の一方、同じルーツでありながら「旅行」を意味する英語"travel"。
この関係について、もう少し調べてみましょう。
フランス語"travail"は、英語にも借用されています。そこでOnline etymology dictionaryでこの単語のルーツを紐解きます。
"labor, toil," mid-13c., from Old French travail "work, labor, toil, suffering or painful effort, trouble; arduous journey" (12c.), from travailler "to toil, labor," originally "to trouble, torture, torment," from Vulgar Latin *tripaliare "to torture," from *tripalium (in Late Latin trepalium) "instrument of torture,"
(出典:Online etymology dictionary)
遡るとラテン語にたどり着くことが分かります。その流れを以下に示してみます。
英語 travail「労働、苦労」(13世紀中頃)
↑
古フランス語travail「労働、苦労、受難、痛みを伴う努力、険しい旅」(12世紀)
※動詞tavailler「苦労する、労働する」から派生。原義は「拷問にかける、苦しめる」
↑
俗ラテン語 *tripaliare「拷問にかける」
※名詞*tripalium(後期ラテンではtrepalium)「拷問器具」から派生。
元の意味は恐ろしいことに「拷問器具」であったというのです。
時代を経る中で肉体的な苦痛を与えるものが「拷問」から「労働」へと変わっていったものと思われます。
また古フランス語"travail"には"arduous journey"「険しい旅」という意味も見られます。これが英語"travel"に受け継がれたということでしょう。
Online etymology dictionaryによれば英語"travel"「旅行」という語について以下の通り記載されています。
The semantic development may have been via the notion of "go on a difficult journey," but it also may reflect the difficulty of any journey in the Middle Ages.
対訳:(「苦労する、労働する」から「旅する」への)意味の発展は「困難な旅をする」という概念から派生したものと思われますが、中世においてはいかなる旅も困難を伴うものであったことが反映されているのでしょう。
(出典:Online etymology dictionary)
英語においては、肉体的な苦痛や困難を伴うものとして「労働」ではなく「旅」が充てられました。
フランス語やスペイン語のように「労働」の意味を持たなかったのは、日々の「労働」を意味する単語にゲルマン系由来の"work"が存在し人々に定着していたからかもしれません。
今でこそ、「旅」と言えば娯楽、とりわけ観光のイメージがありますが引用中の指摘の通り中世における旅は基本的に簡単では無く楽しみを伴うものでも無かったことでしょう。
(Online etymology dictionaryによれば意味の変化は14世紀頃だそうです)
現代とは違う当時の状況を反映してできた語が"travail"や"travel"だったというわけです。
ラテン語t"ripalium"「拷問器具」の由来とは?
現代の「労働」や「旅行」を表す語が、語源を遡ることで「拷問器具」にルーツを持つことが分かりました。
ところで「拷問器具」を指したラテン語"tripalium"の由来は何なのでしょう?
Online etymology dictionaryによれば「3本の杭」だとされます。
probably from Latin tripalis "having three stakes" (from tria "three;" + palus "stake"),
対訳:恐らくラテン語の形容詞tripalis「3本の杭のある」から(tria「3」+ palu「杭」)
(出典:Online etymology dictionary)
また、この"tripalium"というものがどのようなものか、英語版Wikipediaでイラストと共に解説がされています(参照:en.wikipedia.org/wiki/Tripalium)
イメージは3本の杭(木の棒)が交わるように組まれ、そこに人間が磔にされているのですが、本来の用途は正確にはまだ分かっていないのだそうです。
Wikipediaによると、古代ローマ時代からの史料では気性の激しい動物を世話する際につなぎ止めておくための器具が"tripalium"であるとするものもあるそうです。
もし"tripalium"の本来の用途が拷問器具では無かったとしたら、現代のように"travail"「労働」や"travel"「旅行」という語は生まれていなかったのかもしれませんね。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は「労働」、「旅行」を意味する単語のルーツに迫ってみました。
究極的なルーツは「3本の杭」だったわけですが、それが拷問器具であったのか正確な用途は明らかにはなっていません。
いずれにせよ言葉の用法や意味が歴史的な背景を反映して生み出されたものだという好例ですね。
今後も興味深い発見があれば当ブログで取り上げていきたいと思います。