【雑学】「水銀」の外国語を調べてみた!

2023/06/28

英語

t f B! P L

ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

今では非接触式の体温計は珍しくも無くなりましたが、数十年前、私が子供の頃は脇に挟むタイプが主流でした。

当時からデジタル表示の電子式がほとんどでしたが、体温によって膨張した水銀が管の中を上昇していく、いわゆる水銀体温計も使ったことがあります。

(水銀体温計は今では、水銀の環境への影響等から新たな製造や輸出入が禁じられています)

「水銀」は常温・常圧下で液体状となる唯一の金属で、それが日本語名称に「水」を持つ所以と言えるでしょう。

金属なのに液体状というのは不思議なもので、古くは錬金術師が研究の対象としたり不老不死の薬だと考えられたりした歴史もあるとのこと。

今回は、「水銀」という言葉の外国語での表現について調べてみたいと思います。


英語"mercury"の由来とは?

「水銀」のことを英語で"mercury"と表現します。

この単語は大文字表記"Mercury"にすると、「水星」や「(ローマ神話の神)メルクリウス」という意味も持っています。

水銀と水星、さらにはローマ神話の神様の間には一体どのような関係があるのでしょうか?

Online etymology dictionaryでその語源を紐解いてみましょう。

from Medieval Latin mercurius, from Latin Mercurius. Prepared in ancient times from cinnabar, it was one of the seven metals (bodies terrestrial) known to the ancients, which were coupled in astrology and alchemy with the seven known heavenly bodies. This one probably was associated with the planet for its mobility.

対訳:中世ラテン語mercurius  ラテン語Mercuriusから。古代、辰砂から調製され古代人の知る7つの金属(地球上の物体)の1つであり、占星術と錬金術に於いては既知の7つの天体と結びつけられました。恐らく、物質の流動性から水星と結びつけられました。

(出典:Online etymology dictionary

「水銀」はラテン語の時代から"mercurius"という語が充てられていたそうですが、そのルーツは本来「水星」を意味した"Mercurius"から、ということですね。

「水星」は太陽に最も近い惑星で、公転周期も地球より短い惑星です。地球に比べてよく動く様が、液状の「水銀」に重ねられたということでしょう。

そう言えば日本語でも「水銀」と「水星」に、「水」という字が共通していますね。

では、「水星」を"Mercury"(ラテン語"Mercurius")と呼ぶ由来は何でしょうか?

"the Roman god Mercury," herald and ambassador of his father, Jupiter, mid-12c., Mercurie, from Latin Mercurius "Mercury," originally a god of tradesmen and thieves, from merx "merchandise", The planet closest to the sun was so called in classical Latin (c. 1300 in English).

対訳:「ローマの神メルクリウス」、父ジュピターの使者・伝令である、12世紀中ごろ、Mercurie、ラテン語Mercurius「メルクリウス」から、元は商人と泥棒の神、merx「商売」に由来、太陽に最も近い惑星である水星は古典ラテン期に、この名がつけられました(英語では1300年頃)。

(出典:Online etymology dictionary

「水星」はローマの神メルクリウスが由来といえそうです。本来は「商売」に由来し、使者や伝令という役割の派生から「よく動く」イメージがあるのでしょう。

それにしても、商人と泥棒にとって神が共通というのは面白いですね。

以上のことから、「水銀」「水星」が同じ単語であるのはローマ神話の神メルクリウスから派生したからというわけでした。


「水銀」の元素記号はなぜ"Hg."なのか?

私は昔から理系分野はさっぱりなのですが、元素記号はアルファベットだからか(?)周期表を眺めるのは好きでした。

元素記号の命名はラテン語やギリシャ語に由来しているものが多く、英語以外の外国語にも触れることができる好材料です。

では、「水銀」の元素記号が"Hg."と命名されているのは何故でしょう?

英語"mercury"のつづりと全くの無関係であるのは、ギリシャ語に由来するためです。

The Greek name for it was hydrargyros "liquid silver," which gives the element its symbol, Hg.

対訳:ギリシャ語名称はhydrargyros「液体の銀」であり、元素記号Hg.の由来となりました。

(出典:Online etymology dictionary

ギリシャ語でも「液体の銀」に由来し、日本語の「水銀」と同じ考え方といえます。

ところで、この単語の分かれ目はどこでしょう?

"Hg."という記号を考慮すれば、"hyrdar-"と"gyros"でしょうか。

実はそうでは無く、正しくは"hydr-"「液体の」と"argyros"「銀」で分かれます。


英語の別名"quicksilver"とは?

「水銀」は英語で"mercury"以外に"quicksilver"という表現もあります。

"quick-"「すばやい」"silver"「銀」という命名の由来は何でしょうか。

Middle English quik-silver, from late Old English cwicseolfor, literally "living silver," so called for its mobility, translating Latin argentum vivum "living silver;" so called from its liquid mobility.

対訳:中英語期quik-silver、後期古英語cqicseolforの原義はその流動性から「生きている銀」、ラテン語argentum vivumの翻訳から、やはりラテン語も流動性から「生きている銀」の意

(出典:Online etymology dictionary

そのルーツはラテン語にありましたが、「生きている銀」が原義だということです。

英語に翻訳された結果、なぜ"quick"「すばやい」が充てられたのでしょうか?

実は、"quick"という語はもともと「すばやい」という意味ではありませんでした。

Middle English quik, from Old English cwic "living, alive, animate, characterized by the presence of life" (now archaic), and figuratively, of mental qualities, "rapid, ready,"

対訳:中英語期quik  古英語cwic「生きている、生気のある、生命の存在が象徴された」(現代では古形)、また比喩的に精神的な資質として「すばやい、準備のできた」、

(出典:Online etymology dictionary

少なくとも古英語期"cwic"の意味は"living, alive, animate…, (以下略)"であることが引用中からも分かります。

現代の「すばやい」という意味は比喩的な用法にあるとはいえ、当時は主要な意味では無かったのですね。

では、"quick"のルーツを遡ってみましょう。

from Proto-Germanic *kwikwaz (中略), from PIE root *gwei- "to live." Sense of "lively, active, swift, speedy, hasty," developed by c. 1300, on notion of "full of life."

対訳:ゲルマン祖語*kwikwazに由来、(中略)ルーツは印欧祖語の語根*gwei-「生きる」。「活気に満ちた」という概念から、1300年頃までに「元気な、活発な、すばやい、せっかちな」という意味が生じた。

(出典:Online etymology dictionary

そのルーツは「生きる」という点にあったのです。

ラテン語の"argentum vivum"の英訳が"quicksilver"であるのは、現代では不一致に見えますが古英語の時代はむしろ正しい翻訳であったというわけです。

ちなみに、"quick"のルーツであった印欧祖語の語根*gwei-から、ラテン語の"vivo"「生きる」(動詞)や"vividus"「生きている」(形容詞)という語が派生しました。

このうち"vividus"は英語に取り込まれ、現代では"vivid"「鮮やかな」という形容詞となりました。

つまり、"quick"と"vivid"は同じルーツを持つ兄弟語ということになります。

現代の語形と意味からは全く分かりませんね。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回は「水銀」を意味する英語"mercury"や"quicksilver"について調べてみました。

"mercury"の出発点はローマ神話の神様であること、"quicksilver"はルーツを辿ることで"quick"が本来は「すばやい」という意味ではなかったこと、調べてみると興味深い発見がありました。

今後もこうした発見があれば当ブログで紹介していきたいと思います。

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プロフィール

Yuma
様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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