ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
外国語学習において語彙を増やしていくことは言うまでも無く重要ですね。
単により多くの単語を覚えようというのであれば、ある単語の関連語や派生語、同意語や反意語などをどんどん紐づけて行く方法も一つでは無いでしょうか。
今回は、掲題の英語minister「大臣」の反意語について考えてみたいと思います。
反意語(英"antonym")とは?
まずは反意語について確認しておきましょう。
対義語や反対語などとも呼ばれますが、漢字の通りで「ある単語に対し、意味が反対の単語」もしくは「対照的な意味を持つ単語」を指します。
ちなみに、反意語という単語の反意語は「同義語」ですね。
反意語は英語で"antonym" [アントニム]と表現します。
"antonym"は、接頭辞"ant-"「反対の」と"-onym"「単語、名前」による複合語です。
つまり、英語"antonym"も「反対の単語」という原義で、日本語の熟語と同じ成り立ちといえます。
英語"minister"「大臣」について考える?
では本題の、英語"minister"「大臣」について考えてみたいと思います。
プログレッシブ英和中辞典(第5版)によれば、その意味は以下の通りです。
[名]1.大臣、2.(とくにプロテスタントの)聖職者
[動]1.聖職者としての務めを果たす、2.(病人などの)世話をする
日本の総理大臣は"Prime
Minister"と表現されますが、"prime"「主要な、第一の」"minister"「大臣」であるということですね。
またあまりお目にかかったことはありませんが、動詞での用法もあるようです。
"minister"の反意語とは?
本来は「大臣」を意味する"minister"ですが、その反意語とは何でしょうか?
そもそも名詞で「大臣」という意味の反意語は?と聞かれても意味不明ですね。
そこで"minister"の語源について調べてみましょう。
Online
etymology dictionaryによると以下の解説が見つかります。
from Old French menistre "servant, valet, member of a household staff, administrator, musician, minstrel" (12c.) and directly from Latin minister (genitive ministri) "inferior, servant, priest's assistant"
対訳:古フランス語menistre「召使、従者、家政婦、管理者、音楽家、吟遊詩人」(12世紀)から、または直接ラテン語minister(属格形ministri)「下位の者、召使、司祭の助手」から。
(出典:Online
etymology dictionary)
英語には古フランス語経由または直接ラテン語からの由来との事で、元の意味は「召使、助手」など「下位の者」を指す語であったようです。
実は「下位の者」にルーツを持つ所以は、"minister"という語形に注目すると明らかになります。
from minus, minor "less," hence "subordinate" (from PIE root *mei- (2) "small") + comparative suffix *-teros.
対訳:minus、minor「より小さい」が転じて「下位の」(印欧祖語の語根*mei- (2)「小さい」から)+比較の接尾辞*-terosに由来。
(出典:Online
etymology dictionary)
"minister"という語の"mini(s)-"の部分は、「ミニ」「マイナー」という外来語でも我々にはお馴染みですが、「小さい」というのがルーツだったわけです。
英語においては1620年代から現代の「大臣」に通じる用例が見られるようです。
「下位の者」の反意語は?
語源をたどることで、"minister"とは本来「召使」を意味し、ルーツは「小さい、下位の者」だということが分かりました。
すると、その反意語は「大きい、上位の者」と考えられます。
「大きい(英"big")」、「上位の者(英"supervisor")」・・・関連語も含めて思いつく語はあるでしょうか。
実は、"minister"と語源の面から関連の深い反意語は、"master"「マスター」です。
後半部"-ster"は共通していますが、前半"mini-"と"ma-"の関係はどうでしょう。
"master"の語源をたどってみると、興味深いことが分かります。
from Latin magister (n.) "chief, head, director, teacher" (中略), contrastive adjective ("he who is greater") from magis (adv.) "more," from PIE *mag-yos-, comparative of root *meg- "great."
対訳:ラテン語の名詞magister「長、頭、監督、教師」から、(中略)印欧祖語の語根*meg-「大きい」の比較級*mag-yos-から派生したラテン語の形容詞magis「より大きい」に由来する対比的形容詞(「より大きい人」)。
(出典:Online
etymology dictionary)
英語"master"は語源的にラテン語の"magister"に由来します。
この"magi(s)-"が、まさに"mini(s)-"の対照的な形容詞として「大きい」という意味を持つ語だったのです。
現代語の"master"は「達人」や「マスター(何らかの原版)」の意味が主ですが、「大きい」というイメージから派生していることは想像に難くありませんね。
ということで、"minister"「大臣」と"master"「達人」は現代の語形と用法からは無関係に見えますが、実は「小さい」と「大きい」をルーツに持つ反意語だというわけでした。
途中で消えてしまった子音"-g-"
ちなみに余談ですが、ラテン語"magister"から英語"master"へと派生する中で語中の子音"-g-"は消えてしまいました。
これは英語以外の派生語でも同様の例が見られます。
フランス語 maître [メートル]
スペイン語 maestro [マエストロ]
イタリア語 maestro [マエストロ]
ポルトガル語mestre [メストレ]
オランダ語 meester [メーステル]
ドイツ語 Meister [マイスター]
いずれもきれいに子音"-g-"が消えてしまっています。
ラテン語風の[マギステル]は、ガ行音が発音しづらかったのでしょうか。
その昔(1000年以上前)、古英語の時代には"mægester"とつづられていたようで"-g-"が保たれていますが、古フランス語"maistre"の影響により"-g-"が消え、現代の"master"に落ち着いたようです。
The form was influenced in Middle English by Old French cognate maistre.
(出典:Online
etymology dictionary)
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は英語"minister"「大臣」という単語について調べてみました。
現代の用法こそ「大臣」ですが、語源を遡ってみると「小さい、下位の者」というルーツがあったのですね。
そこで反意語として「大きい、上位の者」に相当するのがラテン語"magister"であり、語形変化を経て落ち着いた形が"master"だったというわけです。
現代の語形と用法からは見えづらくなっている関係が、語源を紐解くことで明らかになりました。
今後も興味深い発見があれば当ブログで紹介していきたいと思います。