ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
名詞は対象を指し示すため、ほとんどの言語で用いられる品詞だと思いますが、対象をどう表現するかは言語によって様々です。
例えば日本語で「鼻」は、人間のものでも象のものでも「鼻」です。ただし一般的には人間のものを指すので、象のものは「象の鼻」のようにいいます。
一方、英語で「鼻」は一般的に"nose"ですが「象の鼻」は"trunk"という全く別の単語が存在します。
こうした単語の使い分けは、英語以外の言語にもあるのでしょうか?
ということで、今回は「象の鼻」の表現について調べてみました。
英語"trunk"
まず英語における"nose"「鼻」に対し、「象の鼻」は"trunk"です。
辞書を引くと、以下の意味が見つかります。
1.(木の)幹、(幹に形が似た)ゾウの鼻
2.基幹部
3.(人・動物などの)胴体
4.(木の幹から作った)大きな入れ物、トランク
(参照:プログレッシブ英和中辞典(第5版))
"trunk"の原義は「(木の)幹」であり、見た目が似ているために「象の鼻」という意味が派生したようです。
ただ、Online
etymology dictionaryによると他説もあるようです。
perhaps from confusion with trump, short for trumpet.
対訳:恐らくtrumpetの省略形trumpとの混同によるものと思われる。
(出典:Online
etymology dictionary)
"trumpet"とは楽器「トランペット」のことです。吹き口が長い象の鼻に似ているとも言えますね。
また"trump"と"trunk"はつづりや音が似ているので混同するのも無理は無いのかもしれません。
フランス語"trompe"、スペイン語"trompa"
英語において「象の鼻」に当初"trump"「トランペット」が充てられていたという説は、恐らくフランス語などのラテン系言語の影響によるものかもしれません。
「象の鼻」はフランス語で"trompe"、スペイン語では"trompa"ですが、前者は「らっぱ」、後者は「ホルン」が主な意味です。
(ちなみに人間の「鼻」はフランス語"nez"、スペイン語"nariz"です)
英語の母国であるイングランドは歴史的にフランス北部に定住したバイキング(ノルマン人)の侵攻を受け征服されていた時代があります。
いわゆるノルマン・コンクエストであり、この時代に当時のフランス語彙が英語の中にもたらされたのですが、その時に"trompe"が「トランペット」だけでなく「象の鼻」の意としても流入したのかもしれませんね。
イタリア語"proboscide"
フランス語やスペイン語と同じラテン語にルーツを持つ言語ですが、イタリア語で「象の鼻」はトランペットとの関係は無さそうです。
イタリア語では一般的な「鼻」は"naso"に対し、「象の鼻」を"proboscide"と言います。
この単語の由来は何でしょうか?
From Latin proboscis, from Ancient Greek προβοσκίς (proboskís, “elephant's trunk”) literally "means for taking food," from προ- (pro-, “before”) + βόσκω (bóskō, “to nourish, feed”),
対訳:ラテン語proboscis、古代ギリシャ語proboskís「象の鼻」から、原義は「食べ物をとるための手段」、pro-「前に」+bóskō「養う、食べ物を与える」から
(参照:en.wiktionary)
動物園で象が長い鼻を器用に使って食事する姿を見たことがありますが、その機能に注目した命名だと言えます。
昔の人にも、象の特徴的な鼻とその機能は印象深く映ったのかもしれませんね。
デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語"Snabel"
この3言語は英語と同じゲルマン語派にルーツを持つ点で英語と共通していますが、より細かく分類すれば西ゲルマン語群に属す英語に対して、いずれも北ゲルマン語群に属すとされます。
地理的にも近接していることから語彙や文法の点でもよく似た3言語ですが、「象の鼻」を意味する単語"snabel"も共通しています。
(一般的な「鼻」はデンマーク語"næse"、スウェーデン語"näsa"、ノルウェー語"nese"と微妙に異なります)
この"snabel"のルーツは、同じゲルマン語派に属すドイツ語"Schnabel"からの借用だということです。
しかしドイツ語"Schnabel"は「くちばし、注ぎ口、(船の)舳先」の意味であり、「象の鼻」という意味はありません。
"Schnabel"の語源は、印欧祖語*ksnew- 「ひっかく、こする」にあるようです(参照:en.wiktionary)。
象が鼻の先端を、まるで手のように器用に扱う様もよく見る光景ですが、その様子から派生した単語が「くちばし」を経て北欧の言語では「象の鼻」になったというのは面白い変化ですね。
ドイツ語"Rüssel"、オランダ語"slurf"
北欧の3言語に"snabel"という語を伝えたドイツ語では、一般的な「鼻」を"Nase"というのに対し「象の鼻」を"Rüssel"といいます。
この"Rüssel"はゲルマン祖語の*wrōtaną「鼻で地面を掘る」にまで遡ることができるようで、やはり「象の鼻」の機能に着目した命名と言えるでしょう。
一方、ドイツ語と同じ西ゲルマン語群に属するオランダ語では"slurf"が「象の鼻」を意味します(一般的な「鼻」は"neus")。
この"slurf"の語源は、英語版wiktionaryによれば以下の通りです。
From slurven (a variant of slurpen (“to slurp”)) via Middle Dutch slorf.
対訳:slurven(slurpen「大きな音を立てて吸い込む」の異形)から、中期オランダ語slorfを経て。
(参照:en.wiktionary)
象はまず鼻の中に水を吸い込んでから、鼻先を口に持っていき水分をとります。
暑い日など動物園で象が水を鼻に吸って溜め、体に振りかけている姿を見たこともあるのではないでしょうか。
オランダ語の"slurf"はその機能に着目した命名だと言えます。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は、いろいろな言語における「象の鼻」を意味する単語について調べてみました。
そもそも一般的な「鼻」と区別して別の単語を用いる点が日本語とは異なりますが、言語によって「象の鼻」の見た目だったり機能だったり由来も様々であることが分かりました。
言語によって対象をどう表現するか、調べて比較してみるのも面白いかもしれませんね。
今後も興味深い発見があれば当ブログで取り上げていきたいと思います。