ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
先日「翻訳できない世界のことば」という興味深い本を読みました。
原書は2014年に英語で出版されており、私が読んだのは2016年に刊行された日本語版です。
この本の著者であるエラ・フランシス・サンダースさんは様々な国に住んだ経験を持つイラストレータであり、そんな彼女の外国在住経験から見えた各国語に固有の言葉が、鮮やかなイラストと共にまとめられています。
まるで絵本のような一冊なので肩肘張らずに読むことができ、いろいろな国の言葉に触れることができる良書です。
英語にも翻訳できないことばはあるのか?
本の著者であるサンダースさんは、アイルランドの出身だそうです。
そんなアイルランドではアイルランド語(ゲール語)が第一公用語ですが、日常的な言語としては専ら第二公用語である英語が用いられているそうです。
そうした背景もあってか、本書ではヨーロッパに限らずアフリカや中東、アジア(もちろん日本語も)と、まさに「世界のことば」が広く紹介されていますが、英語が登場することはありません。
翻訳できないことばというのは、母国語話者以外の目線を通してでないと見つけられない(又は見つけにくい)ということもあるでしょう。
そこで気になったのですが、英語にも翻訳できないことばはあるのでしょうか?
【翻訳不可?】英語"boondoggle"の意味や語源とは?
個人的に端的な日本語では言い表せないと感じた英単語に"boondoggle"というのがあります。
この単語との出会いは、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)で挙げられたニュース記事においてでした。
参照:www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=9237380
プログレッシブ英和中辞典(第5版)によると"boondoggle"は米語で次の意味があるとされています。
1.簡単な手細工品。
2.むだな公共事業。
「簡単な手細工品」というのは定義としてふわっとした感じがありますし、「むだな公共事業」を日本語では一語で表現することは難しいでしょう。
そもそも全く関連性の無い「簡単な手細工品」と「むだな公共事業」という意味がどうして両立しているのでしょう?
その語源を調べてみると・・・
earlier it was a name for a kind of braided leather lanyard made by Boy Scouts and worn by them around the neck or hat.
(出典:Online
etymology dictionary)
もともとはボースカウトによって作られた首回りや帽子まわりにつける革製のひもを指す語だったそうです。
In this sense it is attested from 1930, and according to contemporary accounts the thing and the word were invented around 1928 by the Order of the Arrow of Scouts in Rochester, N.Y.
(出典:Online
etymology dictionary)
そして、この"boondoggle"の発明は1928年、"the
Order of the Arrow"(矢の騎士団)というボーイスカウトによるものと考えられているそうです。
現代では日本でも各地に存在しているスカウト活動ですが、その始まりは1907年頃だそうです。「矢の騎士団」は1915年の創設とのことから、特に歴史あるボーイスカウトだと言えます。
当時の彼らがどういう理由で革製のひもを"boondoggle"と命名したのかまでは分かりませんでしたが、これが現在の「簡単な手細工品」という意味のルーツということでした。
「むだな公共事業」の象徴となってしまった"Boondoggle"
では次に「むだな公共事業」という意味のルーツを紐解いてみましょう。
In early April 1935, a dispute erupted in New York City over wastefulness in New Deal white-collar relief work programs, including one where men made boondoggles all day.
(出典:Online
etymology dictionary)
ことの起こりは、我々も歴史の授業で学んだことのある「ニューディール政策」に関する議論にありました。
ニューディール政策とは当時の世界恐慌に対するアメリカの経済対策であり、その内容は多岐にわたりますが、一つに多くの失業者を救済した公共事業の拡大があります。
この救済策(引用中の"white-collar
relief work programs")が、「およそ必要とは考えられない事業計画に対する雇用により、却って予算を無駄遣いしている!」という批判を産んだわけです。
そして、その事業計画の一つが「一日中"boondoggle"を作る」ことであったのです。
Headline writers picked up the word, and it became at once a contemptuous noun or adjective for make-work projects for the unemployed.
(出典:Online
etymology dictionary)
当時の新聞記者が見出しにこの"boondoggle"を取り上げると、失業者に対する不要不急のプロジェクトを意味する侮蔑的な名詞または形容詞としてたちまち使われるようになります。
以上のことから本来はスカウト活動の象徴的な手細工品だった"boondoggle"が、一転してむだな公共事業の象徴的存在になってしまったという訳でした。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は「翻訳できない世界のことば」という本の紹介、および端的に翻訳できなさそうな英単語"boondoggle"について調べてみました。
今回の"boondoggle"の例に限らず、翻訳できないことばというのはその言葉が用いられる国・地域・人々の文化や考え方が根底にあるのではないかと感じます。
端的に翻訳することは難しく、また完全に理解することも難しいと思いますが、世の中には自分と異なる表現の仕方や感じ方があるということを知ることが大切なのだと思います。