ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
この間、近所の河川敷で凧揚げを楽しんでいる子供を見ました。
凧揚げと言えば正月遊びの1つというイメージですが、最近はお正月にもあまり目にすることも無くなりました。
自分自身も凧揚げで遊んだのは小学生の低学年くらいまでだったのではないでしょうか。
今回は「凧」について外国語での表現を調べてみたいと思います。
1.英語"Kite"
「凧」のことを英語では"kite" [カイト]と表現します。
手元の辞書でkiteの第一義は「凧」として取り上げられていますが、古くは鳥類の「とんび」という意味でした(他に"Black kite"「とんび」という表現もあります)。
Old English cyta, probably imitative of its cry.
対訳:古英語cyta、恐らくはその鳴き声の擬声語から
(出典:Online
etymology dictionary)
"cyta"の発音をカナ表記すると[キータ]と考えられるそうで、とんびの鳴き声を聞いたことが無いのですが「キー、キー」のような声から着想を得たのでしょうか。
その後、鳥のように空を飛ぶ姿から「凧」の意味が生まれました。
The toy kite, a light frame covered with paper or cloth, is first so-called 1660s, from its way of hovering in the air like a bird.
1660年代、鳥のように風に乗って飛ぶ様子から軽量フレームを紙や布で覆ったおもちゃの凧を指すようになりました。
(出典:Online
etymology dictionary)
2.スペイン語"Cometa"
「凧」のことをスペイン語では"cometa" [コメータ]と表現します。
英語"comet"からも類推できるように、本来"cometa"は「すい星、ほうき星」を意味します。
風にたなびく凧のしっぽが、すい星の尾のイメージに重なったのでしょう。
ところで、スペイン語"cometa"は意味によって名詞の性が異なります。
「すい星」の意味のときは男性名詞、「凧」の意味では女性名詞です。
たいてい語尾が"-a"で終わる語は女性名詞であることが多いのですが、"cometa"「すい星」に関しては例外的に男性名詞である点にも要注意です。
これは語源となったラテン語"cometa"、さらにその語源であるギリシャ語"kometes"が男性名詞であることを引き継いだためです。
3.ドイツ語"Drachen"
「凧」のことをドイツ語では"Drachen" [ドラッヘン]と表現します。
ドイツ語では"Drache" [ドラッヘ]、日本語で「竜、ドラゴン」という語があり、その変異形が"Drachen"であるそうです。
これもやはり「凧」の飛ぶ様子を竜のイメージに重ねたことからと思われます。
ところで"Drache"「竜、ドラゴン」ですが、Online etymology dictionaryによれば究極的なルーツはギリシャ語"drakon"「へび、巨大な海魚」であり印欧祖語*derk-「見る」にまで遡ると考えられるそうです。
その原義は"the
one with the (deadly) glance."「(死に至る)一瞥をもつもの」と推察されており、何とも不穏な単語です。
へびの目は確かに鋭く冷酷そうな印象があるかもしれません。また、へびにはまぶたが無いのでまばたきはもちろん目を閉じることも無いそうです。
そうした目力(?)のイメージが印欧祖語*derk-「見る」から"drakon"を派生させたのかもしれませんね。
4.フランス語"cerf-volant"
最後に、フランス語では「凧」のことを"cerf-volant" [セル・ヴォラン]と表現します。
ハイフンで区切られていますが、"cerf"は「雄の鹿」、"volant"は「飛ぶ(形容詞)」という意味の語です。
つまり"cerf-volant"の原義は「空飛ぶ鹿」と考えられます。また辞書によれば"cerf-volant"には「クワガタ虫」の意味もあるそうです。
なぜ空飛ぶ鹿が「凧」であり「クワガタ虫」であるのでしょうか。
語源を尋ねると、そもそも"cerf-volant"は「クワガタ虫」という意味が始まりであったようです。
cerf-volant : sorte de scarabée ainsi appelé de son vol et de ses cornes ;
対訳:cerf-volantは甲虫の一種で、角を持ち空を飛ぶことから名付けられました。
(参照:fr.wiktionary/cerf-volant)
クワガタの「角」と言及される部分は実際には大きな顎なのだそうですが、確かに鹿の角のようにも見えますね。
では、"cerf-volant"が「凧」の意味になったわけは、古い辞書によれば「凧」の形状(空を飛び尖った部分や尾を持つ)からクワガタ虫をイメージしたという説もあるそうですが、それは誤りなのだそうです。
le cerf de cerf-volant est en réalité une mauvaise transcription du mot sèrp (phonétiquement identique) qui signifie « serpent » en occitan.
対訳:実際にはcerf-volantにおけるcerfとはオック語で「蛇」を意味するsèrp(発音は同じ)の誤写に由来している
(参照:fr.wiktionary/cerf-volant)
元は空飛ぶ鹿では無く、空飛ぶヘビだったのでした。
オック語とはフランス南部で用いられる言語群の総称であり、「凧」という意味でフランス語化する際に音が同じ"cerf"「鹿」に間違えられたのだと思われます。
Il y a la référence à la forme des premiers cerfs-volants décrits en Europe (中略) qui avaient généralement l’apparence d’un dragon avec une longue queue.
対訳:ヨーロッパで最初に記された凧の形状に関する言及では、一般に長い尾を持つ竜のような見た目だったそうです。
(参照:fr.wiktionary/cerf-volant)
この形状から空飛ぶヘビという語が生まれたというわけですね。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は「凧」を外国語で何と言うか、調べてみました。
今回取り上げた、英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語のいづれも「凧」の形状からの命名でしたが特にフランス語では誤写によりへびが鹿に変わってしまったという面白い話もありました。
今後も興味深い発見があれば、当ブログで紹介していきたいと思います。