ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
ローマ帝国内で話されていたラテン語は、ローマ帝国の崩壊後に各地域で独自に発展して現在のフランス語やスペイン語、イタリア語やルーマニア語などのルーツとなりました。
いわば、ラテン語を親に持つ子供たちといった関係性ですが、そのために各言語間には文法面や単語面でとてもよく似ています。
とはいえ各地で発展していく中で、まったく異なる変化を遂げた例もあります。
今回はそんな例を紹介します。
ラテン語"plicare"「折りたたむ」から派生した単語たち
親であるラテン語において、動詞不定形"plicare"は「折りたたむ」とか「曲げる」といった意味を持っていました。
この単語は、その子に当たる現代語たちには以下のように受け継がれています(いずれも不定形を挙げます)。
フランス語 plier [プリエ]
イタリア語 piegare [ピエガーレ]
スペイン語 llegar [リェガール]
ルーマニア語 pleca [プレーカ]
概ね元のラテン語の形をよく受け継いでいると言えるのではないでしょうか?
スペイン語では語頭"p-"がありませんが、これはラテン語からスペイン語へ口頭で受け継がれていく中で起きた音韻変化の結果です。
話し言葉における音の変化が、元のラテン語のつづりである"pl-"や"cl-"を"ll-"に変えたというわけです。
では、次に上の現代語たちの意味を以下に示します。
フランス語 plier 「折る、曲げる」
イタリア語 piegare 「折る、折り曲げる」
スペイン語 llegar 「到着する、やってくる」
ルーマニア語 pleca 「離れる、出発する」
意味を調べてみると、フランス語とイタリア語ではラテン語の意味を受け継いでいるのに対し、スペイン語とルーマニア語では全く異なる意味に変化しています。
同じラテン語にルーツを持ちながら、なぜでしょうか。
スペイン語"llegar"「到着する」の語源とは?
ラテン語の"plicare"「折りたたむ」から派生したスペイン語"llegar"は「到着する」という意味で使われるようになりました。
その背景について、語源を遡ってしらべてみましょう。
The semantic shift over time from "to fold" is also found in some other Romance cognates, and may be linked to the idea of folding sails when arriving at a port, especially in Iberian Romance where naval tradition was strong.
対訳:後に「折りたたむ」から意味が変化する例はロマンス諸語の他の言語でも見られ、特にイベリア・ロマンス語圏では海軍の伝統の強い影響で、港に到着したら帆を折りたたむという考えが関連していると思われます。
(参照:en.wiktionary)
大航海時代においてスペインやポルトガルは世界を二分するほどの勢いを有していましたが、その影響で「折りたたむ」という単語の意味が変化すたのではないか、と考えられているようです。
スペインのお隣、ポルトガルでも同じ変化によりラテン語"plicare"「折りたたむ」はポルトガル語の"chegar"「到着する」となりました。
ちなみに"chegar"は[シェガール]のような発音です。語頭"pl-"がスペイン語では"ll-"と変化したのに対し、ポルトガル語では"pl-"(及び"cl-"や"fl-")は"ch-"となり発音も「チャ行」を経て現在の「シャ行」音になりました。
ルーマニア語"pleca"「出発する」の語源とは?
スペイン語の意味とは正反対に「出発する」へと意味を変化させたのがルーマニア語の"pleca"です。
では、なぜこのような意味へと変化したのでしょうか。
The semantic shift from "fold" to "leave" may be because to Proto-Romanian speakers, the word became associated with the folding up of tents to leave and move, especially as the pastoral lifestyle was important in their culture
対訳:「折りたたむ」から「出発する」への意味の変化は、特に文化面で牧歌的なライフスタイルが重要とされたルーマニア祖語の話者にとって、テントを折りたたんで出発するという考えと関連付けられた可能性があります
(参照:en.wiktionary)
スペインとルーマニアの地理的な違いがこのような意味的変化において正反対の結果をもたらした、というわけです。
ちなみに、同じ引用元によるとラテン語にも"plicare tentoria"「(軍事的な用法で)野営中、移動のためにテントを折りたたむこと」という表現があったそうです。
またフランス語には"plier bagage"は直訳「荷物をたたむ」ですが、「逃げ支度をする、そそくさと立ち去る、逃げる」という意味の慣用表現もあります。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は、ラテン語から派生した単語について言語ごとの違いを調べてみました。
地理的な要因を反映してスペイン語とルーマニア語で正反対の意味に転じたというのは面白いですね。
ちなみに、本来の「折る、曲げる」という意味は両言語において以下の単語で表現されます。
スペイン語 plegar [プレガール]
ルーマニア語 plia [プリア]
どちらもラテン語"plicare"からの派生であり、異なる語形で現代に残っている二重語です。